海の目の前で育ったのに、ブラックバスに憧れていた。

釣り歴は何年ですか?

そう聞かれると、いつも少し困る。

というのも、釣りを始めた時のことを覚えていない。

物心がつく前から、普通に釣りをしていたらしい。

僕が育ったのは、和歌山の海沿い。

目の前には太平洋があって、祖父は漁師だった。

今になって考えれば、釣りをするにはこれ以上ないような環境だったと思う。

ただ、そんな環境で育った少年が夢中になっていたのは――

なぜかブラックバスだった。

目次

海の目の前で、バス釣りに憧れていた

もちろん、子どもの頃から海釣りはしていた。

最初の頃なんて、仕掛けもエサも全部じいちゃん任せ。

魚が釣れたら、それもじいちゃんに外してもらう。

今思えば「釣りをしていた」というより、釣らせてもらっていたという方が正しいかもしれない。

小学生になる頃には磯にも何度も上がっていたし、なんちゃってフカセ釣りもやっていた。

でも、当時の僕が夢中になっていたのはルアーフィッシングだった。

特にブラックバス。

ルアーマガジンを毎月読んで、「バス釣りってカッコええな」と憧れていたのを覚えている。

理由のひとつには、体質の問題もあった。

生のオキアミを触ると、手がかぶれる。

だからエサ釣りよりルアーの方が気楽だったというのもある。

そんな僕を見て、地元の磯釣りの常連さんたちが言った。

「お前、こんな環境にいてんのに、なんでわざわざブラックバスなんかやってんねん!」

「教えたるから磯へ来い!」

今思えば、ごもっともである。

中学1年、本格的にフカセ釣りを始めた

それがきっかけで、中学1年の頃から本格的に磯のフカセ釣りを始めた。

教えてくれたのは、昔からよくしてもらっていた地元の釣り人たち。

僕のことを息子みたいに扱ってくれる人が何人かいて、その人たちについて磯へ行き、仕掛けの作り方から釣り方まで一から教えてもらった。

道具もたくさんもらった。

考えてみれば、最初の頃に自分のお金で買っていたのはエサくらいだったんじゃないかと思う。

しかも、磯へ渡る費用もほとんどかからない。

子どもだから、一番いい場所で釣らせてもらえる。

エサはばあちゃんが買っておいてくれる。

釣った魚を持って帰れば、おかんとばあちゃんが勝手に捌いて食べさせてくれる。

大人になった今なら分かる。

磯釣りをする人間からしたら、ほとんど天国みたいな環境だった。

当時の僕には、それが当たり前だった。

初代グレスペシャルで受けた衝撃

そんな頃、よく釣りに連れて行ってくれていた人から、がまかつの初代グレスペシャルをもらったことがある。

初めて使った時のことは、今でも覚えている。

まず驚いたのが、穂先の柔らかさだった。

ガイドにラインを引っ掛けてしまって、

「あっ!」

となった瞬間、今まで見たことがないくらい穂先が曲がった。

「こんな曲がるん!?」

それが性能的にどう良かったのか、当時の僕には分からない。

でも、とにかく衝撃だった。

そして実際に魚を掛けると、さらに驚いた。

それまで使っていた竿とは、曲がり方が全然違う。

魚を掛けると、胴までガッツリ乗ってくるような感覚があった。

「これが、がま調子か!」

中学生ながら、そんなことを思ったのを覚えている。

ちなみにその後、そのイメージを持ったままグレ競技スペシャルⅢを買って、別の意味で衝撃を受けることになる。

その話は、また別の機会に。

オキアミでかぶれるのに、なぜフカセができたのか

そういえば、ひとつ疑問が残る。

生のオキアミで手がかぶれるのに、どうやってフカセ釣りをしていたのか。

理由は単純。

当時、僕の地元では「ボイル」の釣りが全盛期だった。

サシエもボイル。

マキエもボイル。

僕の場合、ボイルなら触ってもほとんどかぶれなかった。

だから特に問題なくフカセ釣りを続けることができた。

今では当時ほどひどくないけれど、それでも生のオキアミはあまり触りたくない。

そんな体質なのに、結局フカセ釣りを何十年も続けているのだから面白い。

フカセ釣りには「絶対の正解」がない

フカセ釣りの何がそんなに面白いのか。

一番は、やっぱり奥が深いことだと思う。

狙った魚を掛けるまでに、考えることがとにかく多い。

仕掛けをどうするか。

潮はどう流れているのか。

マキエはどこへ入れるのか。

サシエは海の中をどう流れているのか。

目には見えない海の中を、自分なりにイメージする。

しかも、人によって考え方も釣り方も違う。

誰か一人のやり方が、絶対の正解というわけでもない。

昨日の正解が、今日も正解とは限らない。

そこが面白い。

そして、グレを狙っていても色々な魚が釣れる。

これも僕がフカセ釣りを好きな理由のひとつだ。

さらに魚を掛けてからは、やり取りにもはっきり腕の差が出る。

だから、何年やっても終わりがない。

今は、クチブトだけが目的じゃない

メインターゲットは、もちろんグレ。

ただ、今の僕は正直なところ、クチブトグレには少し飽きてしまった。

そこそこのサイズのクチブトを狙うより、モンスターサイズのイスズミやサンノジを掛けて、竿が折れそうになるようなバトルをする方が楽しかったりする。

普通なら「外道」と呼ばれる魚でも、デカければ話は別。

何が掛かるか分からない。

掛けた魚をどうやって獲るか。

そんなところも、フカセ釣りの面白さだと思っている。

でも、ずっと頭の片隅にいる魚が一匹いる。

尾長グレだ。

しかも、ただの尾長じゃない。

60センチを超える尾長。

昔、この海には60尾長がいた

僕が生まれる少し前くらいまで、地元の海でも60センチを超える尾長グレが釣れていたらしい。

当たり年には、60オーバーばかりでクーラーがいっぱいになるくらい釣れたこともあったと聞いている。

今では信じられないような話だ。

ここ30年ほどは、僕の地元では60センチどころか、50センチを超える尾長ですら滅多に上がらなくなった。

だから、地元で60尾長を釣るなんて、昔話のように聞こえるかもしれない。

でも、いる。

僕は何度も見ている。

普段釣りをしている磯で、明らかに60センチを超えている尾長を。

「やっぱり、おるんや」

初めてはっきりと「60オーバーや」と分かる尾長を見た時、磯の上で固まった。

やっぱり、おるんや。

そう思った。

そして、いると分かってしまったら、次に思うことは一つしかない。

おるんやったら、釣らなあかんやろ。

ただ、これが簡単ではない。

まずサシエに反応させること自体が難しい。

60センチまで大きくなったということは、それだけ長く生きてきた魚ということでもある。

生物として優秀だったからこそ、何年も生き残ってそこまで大きくなった個体だ。

そう簡単には騙されてくれない。

そして、数えるほどしかないけれど、確実に60クラスだと思う尾長を自分の針に掛けたこともある。

でも、獲れていない。

僕のホームは基本的に水深が浅い。

掛けた瞬間から魚との距離が近く、巨大な尾長に走られると、何もできないうちに根へ入られて終わる。

掛けるだけでも難しい。

掛けても、獲れない。

だから面白い。

いつか、ここで60尾長を。

大型の尾長グレで有名な場所は他にもある。

60センチを超える尾長が現実的に狙える場所へ遠征するという選択肢もある。

もちろん、そういう場所で60尾長を釣ることにも大きな価値がある。

でも、僕が一番釣りたい60尾長はそこにはいない。

僕が生まれ育った海。

じいちゃんと釣りをした海。

子どもの頃、地元のおっちゃんたちに釣りを教えてもらった海。

昔は60オーバーが釣れていたという海。

そして今でも、自分の目でその魚を確認している海。

ここで釣りたい。

釣れないから夢を見ているわけじゃない。

いると知っているから、釣りたい。

いつになるかは分からない。

もしかすると、一生獲れないかもしれない。

それでも――

いつか、ここで60尾長を。

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